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             浄円寺コラム<54>      2022,4,30重共聡

[二周年企画]人生は出遇い<その五>

朝ドラ・ヒロインと公園デート 1999冬

僕の観(み)る映画は、だいたい監督で決めている。

黒澤明、山田洋次、山本正樹そして、伊丹(いたみ)十三(じゅうぞう)監督は外(はず)せないところだ。

風刺(ふうし)のきいた伊丹作品は観ていて痛快(つうかい)で、封切(ふうぎ)りの度(たび)に映画館に足を運んでいた。港区麻布台のマンションから飛び降りたニュースを目にした時は、

「あぁ、これでもう次の作品が見られなくなるのか。」

と本当にがっかりした。

伊丹監督作品との最初の出会いは、日本アカデミー賞最優秀作品賞をとり話題になったデビュー作『お葬式』だった。富山の映画館の片隅(かたすみ)で、主演の山崎努を相手の女優Tの迫真(はくしん)の演技は、息をするのも忘れて見入っていた。

まさか十五年後、その女優のTさんと公園で待ち合せすることになろうとは、僕を知る誰が想像しただろうか。

 

『お葬式』公開の一年後、僕は埼玉県に移り住んでいた。それから五年ほどして、太極拳の師となる台湾人の邱(きゅう)先生と出遇い、自分の中で幻の太極拳だった鄭子(ていし)太極拳を始めることになる。

その後、鄭子太極拳の台湾版ビデオを邱先生が日本語に翻訳(ほんやく)して、プロによるナレーション入りで出版されることになった。

 欧米ではポピュラーな鄭子太極拳だが日本ではまだ認知度が低かったので、鄭子のビデオ制作販売を手掛けている会社の近藤さんから、

「女優さんを使って鄭子太極拳をもっと知ってもらいましょう。」

という話が持ち掛けられた。近藤さんは以前プロダクションをやっていた関係で、芸能界には顔が利(き)くらしい。

 そして、候補として挙がったのが女優Tさんだった。

 Tさんの名を耳にした時、彼女が出演した『お葬式』のあのワンシーンが瞼(まぶた)に浮かんできた。

 僕が鄭子太極拳の形を教え、Tさんがいろんな媒体(ばいたい)を通(つう)じて鄭子太極拳のことをしゃべってもらう。そういう段取(だんど)りだった。

こちらにも異存(いぞん)はなく、すぐにOKした。

 

打ち合せ当日はあいにくの雨だった。

原宿で待ち合せて代々木公園で指導する予定になっていたが、急遽(きゅうきょ)変更して今回だけTさんの自宅でやろうということになった。

 ビデオ制作会社の近藤さんと女優のTさん、Tさんのマネージャー、それに僕の四人が荻窪(おぎくぼ)にあるTさんの自宅に集合した。

 玄関の上(あが)り口に小さな祭壇(さいだん)があり、亡くなった二匹の愛猫(あいびょう)の遺影が飾られていた。悲しみのあまり本も出版されたとのことで、その自著(じちょ)『猫が教えてくれた大切なこと』も置いてあった。

居間の狭いスペースで一番目の形である起勢(チーシー)をやった。

 すると、意外にも一緒にやっていたマネージャー女史が、

「これ、いいわー!とても気持ちがいい。」

と気に入ってくれた。

 それを聞いて、芸能界の人は感性がいいなという印象を持った。

 

次回からは毎週土曜日の午後に、Tさんの自宅近くにある善福寺川(ぜんぷくじがわ)公園で形の練習をすることになった。

 最初の二回はビデオ制作会社の近藤さんが同行してくれたが、その後は女優Tさんとマンツーマンでやった。

 善福寺川公園は、武蔵野の面影を残す川沿いに細長く広がる公園で、周辺の住民が思い思いに過ごしていた。

 印象に残っているのは、バイオリンを弾(ひ)いている青年がいたことだ。何か映画のワンシーンの中に自分も溶け込んでいるような錯覚(さっかく)を覚(おぼ)えた。

 有名女優だからといって、Tさんをジロジロ見る人は一人もいなかった。

女優といってもスクリーンで演じる役柄とは違い、普段は自分達と変らないということが解った。

ある日、年齢(ねんれい)を聞かれて当時四十代の僕より二才年下だとわかると、彼女は小声で、

「キャー」

と言って、はしゃぐ素振(そぶ)りを見せた。

年齢が近かったためか割と打ち解けて話が出来たようだ。

 

週一回の太極拳の稽古は順調に進み、一ケ月ほど経った頃彼女が言った。

「ずっと右膝に痛みが少しあったのですけど、最近それがなくなりました。」

 膝の痛みに太極拳は禁忌(きんき)というのが持論だったが、軽いものはむしろ改善されるということをTさんを通して学ぶことができた。

 土曜の稽古は五カ月ほど続いた。

そして、女優Tさんは取材の都度(つど)、鄭子太極拳のよさをアピールしてくれた。発売される度に、僕は記事の載っている雑誌を買い込んだ。

 今手元には、2000年に発売された主婦と生活社の『40代からもっときれいになる本』一冊しか残っていないが、その中でもTさんが鄭子太極拳の効果を語ってくれている。

 取材当日、僕はスタジオへ行き太極拳の形の撮影の振り付けを担当した。

 ヘアメイクにかなりの時間をかけた彼女が、僕の用意したカンフー着姿で現れた時、見違えるほど凛々(りり)しくなっているのを見てさすが女優さんだなと思った。

 

出来上がった記事には、形の写真三枚のうち二枚のポーズと名称が逆になっていたが、素人がみてもわからないだろうと、特に気にとめなかった。

 

私が習った鄭子太極拳は、全部やっても10分前後で終わります。

 今までだったらお茶でも飲みながら出番を待っていただけなのに、今はその時間に太極拳をしています。太極拳の中でも、特に鄭子太極拳は動きがなめらかなんですよ。その動きの中に自分が同化して、精神的にもなめらかになれるんです。

 仕事の前でも、10分前後なら十分にとれるでしょ。控え室なんかなくても廊下でもできるし、ムダな緊張がとれて、すごくニュートラルな気持ちになれるんです。いい意味の高揚感もわいてきますしね。

 私はそれで自然なお芝居ができればいいなと思っているんです。他の仕事でも、肩に力が入りすぎていると、物事がうまく運ばなかったりしますよね。そういう「悪い緊張」をとるのにも、すごく役立つと思います。気持ちが落ち着いていれば、人にもやさしく接することができますよね。太極拳にはそんな効果もあると思うんです。

 太極拳を始めてから一年以上になります。

 ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、天気がいい日には公園でやるのも気持ちいいの。    

主婦と生活社『40代からもっときれいになる本』より抜粋

 

 

 

NHK朝ドラ(『いちばん星』1977年)のヒロインも演じたことがあると聞いた。が、出勤が早いため朝ドラにはまったく縁がない自分にはピンとこなかった。

女優Tさんとは、高瀬春奈(たかせはるな)さんのことだ。

 

 

 

たどり着いたテーマ NHK SWITCHインタビュー2022,2,26

加藤諦三氏

「講演会に行って、

『皆さん幸せになりたいですか?』

って聞くと、みんな、

『幸せになりたいです。』って言うんです。

 意識では、みんな幸せになりたいと思ってんだけれども、もっともっと強い衝動ってのが人間にあって、それは『不安を避けたい』ということなんですよ。

 だから、この不安の問題を正面から解き明かさないと、人類の救いの道ってのが出てこないと思うんですよ。

 だけども、年令が年令ですから。

もう80(才)過ぎてますから、残念ながら…」

 

インタビューを聞き終えた時思った。

加藤諦三氏が80才を過ぎてたどり着いたテーマ『不安を避けたい』、これはまさに真宗の根本テーマであり、その方法がお経には懇切丁寧に説かれているんだがなと思った。

 

                             [次号 5月14日]

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