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             浄円寺コラム<34>      2021,7,24重共聡 

闖入者(ちんにゅうしゃ) 2021春

5月9日午後十時半。

 就寝前にトイレに入り、小便器の前に立った時だった。

 スリッパの中の右足指にチクりとしたものを感じた。

 最初は、何かが触れたくらいの感じだったが、それがトゲのようにも思ったので、トイレを済ませてから確認しようとそのまま立ち続けた。

 ところが、その箇所の刺激が次第に強くなり、急にペンチでギューッと挟(はさ)まれた痛みに変わった。

 今まで経験したことのない痛みに、トイレどころではなくなり、中断して思わず右足のスリッパを脱ぎ捨てた。

くつ下をはいた足先を確認しようとしたら、何かが目に入った。転がっているスリッパの中から細長いヒモのようなものが顔を出していた。

その瞬間、思わず身構(みがま)えた。

 

体長十センチほどのムカデだったのだ。

もうムカデの季節なのか…。一シーズンに五~六匹は捕獲(ほかく)しているのだが、実際に噛(か)まれたのは初めてだった。

それはホッチキスで留(と)められたような強烈な痛みだった。

 居間に引き返して患部の右足薬指を見てみると、赤く腫(は)れて熱を持っていた。

 尿意や眠気は吹っ飛んでしまった。 

 

痛みが治(おさ)まりそうもないので、一旦(いったん)寝るのをあきらめて、置き薬の箱をゴソゴソやってかゆみ・虫刺されのチューブを見つけ、患部に塗(ぬ)りたくった。痛みは相変わらずだったが、薬を塗ったことで気持ちはややおさまってきた。

 午前一時近くになり、もう気にせずに眠れるくらいまで痛みが落ち着いてきたので、寝室へ行き眠りについた。

 

 翌朝、目が覚めた時、

「あれっ!?」

と思った。

いつもとは違う体の変化を布団の中で感じていた。

 頭は脳みそを洗ったようにスッキリしているし、体がいつになく軽いのだ。

 理由は、すぐに思い浮かんだ。

 ムカデの毒だ。漢方薬として使われる附子(ぶし)(※)のように、毒も薬とはこのことかと思った。

 お参り先でそのことを話すと、

「昔はビンに油を入れ、そこへムカデを入れて毒を吐き出させたのを傷口に塗ると、治りが早かったのよ。」

と言われた。

 また、整骨院では患者さんに、

「何もしないとムカデは噛(か)みついたりしないんだけどね。」

と言われ、ムカデも踏まれて逃(のが)れるのに必死だったんだなと思った。

                        ※附子…毒草トリカブトの成分。

 

 

私の念仏 原稿⑥

 私は悲しい。

 どうして こうも腹が立つのか。

 どうして こうも他人の欠点(あら)ばかり見えるのか。

 どうして こうも他人の悪口が楽しいのか。

 どうして こうも自分が可愛いのか。

 どうして こうも好き嫌いをするのか。

 どうして こうも欲が深いのか。

 どうして こうも他人の幸せが妬(ねた)ましいのか。

 

 その自分がどうにもならない。

 汚(きたな)いなあ。

 罪が深いなあ。

 それが自分。

 どうにもならない自分。

 私は悲しい。

 

「仏さま お助けください。ナムアミダ仏 ナムアミダ仏。」

 私は身も心もおまかせして

 念仏申すばかりです。

 

 

<連載企画>

医療・介護の世界に足を踏み入れて

第二部 医療日誌

今を生きる(2)

 その日も帰宅して遅い晩(ばん)飯(めし)を食い、銭湯で一日の疲れを取って一息つき、いつものようにラジオから流れる音声を、聞くとはなしに聞いていた。

 

 すると、それまでバカなことばかり言ってふざけていたパーソナリティーのK氏が、急にしんみりとした口調になり、

「ここで中二のある少女から届いた手紙を紹介します。」

と言って読み始めた。

「私、交通事故に遭(あ)い複雑骨折をしました。

 輸血を大量にして命はとりとめたのですが、キャプテンをしていたクラブ活動のバレーボールが出来なくなってしまいました。

 絶望している所へ追(お)い討(う)ちをかけるように、エイズの宣告を受けました。

 手首を切って死のうとしましたが、死ねませんでした。

 そうするうちに、自分一人の命じゃないことを知りました。

 両親、兄妹、友人など多くの人達の励ましのおかげで生きている有難さを知りました。

 また、自分よりはるかに年下のエイズで苦しんでいる子供たちに比べると、わたしは十四年もの人生を歩むことができたんだから幸せだと思います。

 そして、今の方が健康な時よりもはるかに一日一日が輝いていると感じています。」

 

 手紙が終わるまで、じっと耳を傾けていた。

 一語一語から伝わってくる切迫感(せっぱくかん)と、極限状態で転換した彼女の生き方に打たれていた。

静まり返った窓の外を、夜行(やこう)列車の音が小さく通り過ぎて行った。

                                   (つづく)

                               [次号 8月7日]

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